『中山狼伝』注解

(内容:中国で、忘恩の狼として有名な『中山狼伝』の文法解説。はじめに。)

『中山狼伝』注解

■はじめに

「中山狼伝」は、明代の馬中錫の作と伝えられる文言小説である。
忘恩を扱った小説として、中国では人口に膾炙され、明人康海により雑劇にまでされている。
東郭先生という墨者に命を助けられた狼が、貪欲にも先生を食べようとする忘恩の行為をするが、最終的には退治されてしまうという話である。
有名な話にもかかわらず、残念ながら日本では訳書や注釈書がほとんど出版されていない。

一方、古典中国語文法を学習する上で、中国出版の多くの虚詞詞典や文法書には、頻繁に本文が引用されている背景がある。
よって、そのような学習者の便をはかるべく、また、ストーリー自体がおもしろいので、学習教材としても扱えるという観点から、詳細な注釈を施してみることにした。

「中山狼伝」の作者は明代の馬中錫としたが、実は諸説がある。
唐人の姚合とも、宋代の謝良、あるいは謝枋得とも伝えられ、十人以上の作者説があって、はっきりしたことはわからない。
また、この作品は、馬中錫の作品を収める『東田文集』に見えるほか、明代の文言小説叢書である『古今説海』にも収められており、いくつかの異なる本文が伝わっており、そのどれが最も原点に近いのかもよくわからない。
それらのことについては、本文の異同を詳細に検討することで、ある程度解明することは可能かと思うが、ここでは取り扱わない。

本稿は一般に作者とされる『東田文集』(叢書集成初編所収)を底本とし、『古今説海』等との異同を参照しながら、注釈を施すものである。
また、特に語法については、古典中国語文法に基づくものとする。

当然誤謬があろうかと思う。ご指摘を頂きたい。


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