「故事五編」注解
『故事五編』注解高等学校の漢文は、訓読に従って学習するのが建前であり、それを効果的に習得するために、いわゆる「句法」を手立てとしてきたというのが従来の漢文学習である。句法はいわば九九のようなもので、難しいことは論ぜずにとにかく形として覚えればよい、そういう姿勢で授業の多くが行われていると思う。これはつまり、よく用いられる「型」をいくつか覚えてあてはめて理解しようという方式である。しかし、実際の漢文はなかなか「型」だけでは読みこなせず、理解の便を図るために、授業の説明の中に補助的に漢文の語順を導入したり、英語の構造とのすりあわせを行ったりする。これは、九九的理解を越えて、なぜそういう構造になるのか、なぜそういう語順になるのかという、一歩踏み出した考え方、授業法になる。たとえば、入門期に主語や述語、目的語、補語などの用語を用いて説明を試みたり、訓読でうまく説明できない箇所に一部古典中国語文法の知識を導入したり、どこにどの語が省略されているか考えたり、これはこれの倒置形であるとか説明を試みたりするのは、訓読と句法で済ませる域を越えた授業法の模索だといえるだろう。 しかし、これらの方策は結局のところ中途半端に古典中国語文法を取り込んだ方式であるがゆえに土台がしっかりしていない上に、ふだん日本語的に理解させていた漢文に、考え方の異なる文法が登場するという違和感を禁じ得ない。日本語の説明なのだか古典中国語の説明なのだか区別のはっきりしない授業が展開するという珍妙な光景になってしまう。 このような混乱を避けるために、漢文の構造を授業でどのように扱うかについてこれまで試行錯誤を続けてきたが、結論として小細工を弄せず、古典中国語文法に素直に従い、訓読とのすりあわせをするのが最も自然な方法であるという見解に達した。古典中国語文法から都合のいい所だけを抜き出す従来の手法では、やはり必ずどこかにひずみが生じるからである。一方、訓読自体は日本語訳の処理であるから、古典中国語文法とのすりあわせが必要だが、古典中国語文法から訓読へという方向を誤りさえしなければ、その後の解釈が当を得ないという危険も冒さずに済む。この稿では、漢文の構造を理解させるための方策として、古典中国語文法による説明を拠り所とし、その上で訓読とのすり合わせを行う。その際、教科書教材をどのように捉えればよいかを、具体的な作品、故事五編「守株」「蛇足」「助長」「漁父之利」「矛盾」を例として語法的に示し、併せて定番教材としての五編を内容的に解説する。↓下の目次よりご参照ください。
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