『孟子』注解

(内容:『孟子』で、教科書によく採用される文章の文法解説。はじめに。)

はじめに


これまで紀要において、『史記』の「鴻門の会」「四面楚歌」「項王の最期」、『論語』の語法注解を行ってきた。
そのたびごとに前言に記したことだが、これは、たとえ「主体的・対話的で深い学び」をスローガンに古典の授業法の改善が叫ばれる中にあろうとも、妥当な鑑賞や考察が「主体的・対話的で深い学び」のもとに実現するためには、正確な本文解釈が前提になるという立場の表明であった。
深い知識や教養、さらには適切な資料もなしに、いわば生徒同士が「テキトーに」想像をめぐらし思いつきを越えない対話を繰り返してみても、「深い学び」など実現すべくもないからである。
『史記』、『論語』の語法注解は、そのような思いに基づいて、授業者や学習者が教材を正しく理解するための一助になればよしと試みたものであった。

本稿は、新たに題材を『孟子』にとり、とりわけ有名なものや検定教科書によく採録されるものを選んで、中国の古典文法に基づき解説する。
「清嘉慶二十一年阮元校刻十三経注疏」底本の『十三経注疏』(北京大学2000)を底本とする。
こう訓読しているから、なんとなくそういう意味だと思っていたではなく、語法的にこう説明されるという理解を基盤として、授業者が自信をもって授業作りを行えるための一助、それを目標に筆を執るものである。

教科書定番教材であるために、教師用指導書や参考書に、孟子の思想の詳細や人物、時代背景、その他、詳細なものはいくらでも見つけられるが、本稿の性質上、それらについては諸本に譲り、詳しい説明は行わず、もっぱら語法解説に重きを置いた。

語法については、諸説ある部分、幾通りにも解せる部分は当然あり、本稿に述べることが唯一のものではないこともご理解いただきたい。
中には一般に説かれている語法解説とは異なることを述べた部分もあるが、筆者の思考過程も含めて、参考に供したい。

各段落末には「文の成分および品詞分解」を設け、理解の便をはかった。
特に謂語(述語)については、たとえば「能」「可」などの助動詞を伴っている場合はそれをも含めて謂語として示し、また、謂語が副詞などの修飾語を伴う場合は否定副詞「不」などを伴う場合以外は、中心語のみを謂語とした。
「不食」(食べない)の「食」のみを謂語とするのはあまりに不自然だからであり、この点の不統一はご容赦いただきたい。
なお、語法注解の中で私論を述べた部分も、この「文の成分および品詞分解」では、一般の語法学で普通に論じられているものを示した。

各成分については、それ自体がさらに別途成分分解が可能なこともあり、その場合は(謂)(賓)などと示したが、煩雑さを避けるために、それ以上の成分分解は行わなかった。

浅学ゆえに誤りもあろうかとも思う。
また、これまで紀要において説明したこととは異なる記述もあろうが、それはさらに研究を進めた結果であるのでご理解いただきたく、また誤りについてはご指摘、ご教授いただきたい。

「文の成分および品詞分解」で用いている略語は、およそ下記の通りである。

〔成分〕
主…主語。
謂…謂語。
賓…賓語(目的語)。
補…補語(後置修飾語)。
連用…連用修飾句(状語)。
介…介詞句(前置詞句)。

〔品詞〕
名…名詞。
名(方)…方位詞。
代…代詞。
動…動詞。
副…副詞。
形…形容詞。
助動…助動詞。
介…介詞。
数…数詞。
量…量詞。
連…連詞(接続詞)。
嘆…嘆詞。
語気…語気詞。
結構…結構助詞。
助…その他の助詞。

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