お勧めの漢和辞典・参考書・学習のしかた(高校生 対象)

(内容:高校生に漢文を学習する上での辞書や参考書を紹介。あわせて勉強のしかたをアドバイス。)

漢文を読み解く力をつけたい高校生のみなさんへ、お勧めの漢和辞典や参考書を紹介し、勉強のしかたをアドバイスします。

■漢和辞典
1冊は用意して、手元に置いておきましょう。
受験に限らず、わからないことばの意味を調べる習慣はとても大切です。

市販されている漢和辞典は、それぞれ性格が異なりますが、いずれもよくできています。
もしすでに持っておられるなら、それを活用してください。
そして、「一字引くのに1分かからず!」をモットーに、こまめに辞書を引く習慣をつけましょう。

もし、まだ漢和辞典をもっておられないなら、次の漢和辞典を推薦します。

1.『角川 新字源 改訂新版』
〔小川環樹/西田太一郎/赤塚忠/阿辻哲次/釜谷武志/木津祐子 編〕(角川書店)
「角川 新字源 改訂新版」の写真

古くから定評のある辞書で、管理人も学生の頃から愛用しています。
西田太一郎氏は『漢文の語法』(角川書店)でも有名な方です。


2.『漢字源 改訂第六版』

〔藤堂明保/松本昭/竹田晃/加納喜光 編〕(学研プラス)
「漢字源 改訂第六版」の写真

漢字の語源研究第一人者、藤堂明保氏が関わっておられた辞書。
現行のものは私的には少々派手なレイアウトですが、使いやすいでしょう。

個人的には、この2冊のいずれかで決まりかな?と思いますが、高校生がこれにこだわる必要はなく、上記以外にも良い辞書はあります。

・『新漢語林 第2版』〔鎌田正/米山寅太郎 編〕(大修館書店)
・『旺文社 漢字典 第4版〔宇野茂彥・長尾直茂・小和田顯・大島晃 編〕(旺文社)
・『新選漢和辞典 第八版』〔小林信明 編〕(小学館)
・『岩波 新漢語辞典 第三版』〔山口明穂/竹田晃 編〕(岩波書店)

などなど。

まずは、これらの中からどれか1冊、手元に置きましょう。

漢和辞典は、一生使えるものです。
甲骨文字・金文などの基本資料をもとにした漢字の原義に基づいた無難な記述で、漢字の字義や用法を慎重に説明しているものがお勧めです。


■学校サブテキスト
高等学校で授業のサブテキストとして生徒のみなさんに利用を勧めているサブテキストも効果的に利用することで、漢文を読み解く力をつけることができます。
漢文の授業の時、自学する時、常にそばに置いて、わからない形がでてきたら、すぐ手に取るようにしましょう。

学校でしか手に入らないもので、生徒のみなさんには選びようがないのですが、著者でもあるので次の1冊を紹介します。

1.『三訂版 体系漢文』
(数研出版)
「三訂版 体系漢文」の写真

従来の句法解釈を見直し、古典中国語文法の観点を導入して、高校生のみなさんにもわかりやすく書いたものです。

他にも『基礎から解釈へ 漢文必携 四訂版』〔菊池隆雄/村山敬三/六谷明美 編〕(桐原書店)などは、良書だと思います。

さて、この手のサブテキストも使い方によって、漢文を読み解く力の付き方が変わってきます。
これは私のお勧めの勉強法になりますが…

ABCなどの記号を用いて説明してある句形を丸覚えするだけではなく、例文を見て「読めるように・訳せるように」する練習をする。

できれば、例文を白文(返り点や送り仮名のない文)にして、「読めるように・訳せるように」する。

上のことに心がけるだけで、ずいぶん力の付き方が異なります。
実際の漢文に、AだのBだのというアルファベットは出てきません。
生きた漢文を相手にしましょう。

ただ丸覚えするのでなく、語順を意識、つまり主語や述語、目的語、さらには前置詞句や修飾語などを意識して、構造的に句形を理解するようにつとめましょう。

「句形を覚えるのではない、構造を覚えるのだ!」です。


2.『ためぐち漢文』
〔中井光 拙著〕
「ためぐち漢文」の写真

このサイトで無料公開している、高校生のみなさんのために「ためぐち」で書いた『これならわかるぜ! ためぐち漢文 ――漢文の構造をわかりやすく知りたい君へ――』です。
まだ執筆中ですが、基本構造編は完成していますので、漢文の構造を理解したい人はぜひ利用してください。
 →『ためぐち漢文』はこちら。

余計なことかもしれませんが、高校生が主に受験を目的として漢文を学ぶための句法の参考書は以上で十分です。
学校がもたせているサブテキストは、意外によくできています。


■勉強のしかた
まず、学校で漢文の授業を受けているときに、してはいけないことを書きます。

NG:教科書の漢文本文のすぐ横に、読み方(書き下し文など)や訳を書く。

どうしてもそれに頼ってしまって、漢文それ自体を読まなくなります。

NG:先生が黒板に書かれた漢文をノートに写す時、返り点を上からまとめて写し、それから送り仮名をまとめて上からつける。

いつまで経っても、正しい返り点と送り仮名の施し方が身につきません。
何かで定められているわけではありませんが、返り点と送り仮名を施す自然な順序があります。
これをマスターしないと、黒板の漢文をノートに書き写すときに、大変な時間がかかる上に、施しミスが多くなります。

返り点と送り仮名を施す順序については、こちらのエントリーを参照してください。


漢文を読み解く力を身につける学習方法について、次のアドバイスをします。

1.漢文そのものを読もうとする。

当たり前のようですが、実はこれができていない高校生が多いのです。
定期試験ではそこそこの成績がとれるのに、模擬テストなどではさっぱり…という人は、たいがいこれです。
教科書の本文は、授業で訳しますから、その訳を覚えようとしがちです。
そうではなくて、漢文そのものを構造的に理解した上で、目で読み、声にも出して読み、読んだと同時に意味がわかるようになるのをめざしましょう。

2.ノートに教科書の本文を写すときには、白文にする。

予習のためにノートに教科書の漢文を書き写す人が多いと思います。
でも、どうせ写すのなら、返り点と送り仮名はつけずに、白文にしましょう。
テスト前でいいですから、それをすらすら読めるようにする。
わからなければ、教科書を見ればよいのです。
白文を読む練習は、飛躍的に漢文を読み解く力をつけます。
自然と語順が身につくからです。
それは漢文の基本構造を体得するということにつながります。
返り点と送り仮名は、いわば自転車の横だま(補助輪)です。
それを外さない限り、永遠に自転車には乗れません。

定期テストで、試験範囲なのに、たとえば「尽」(ことごとク)、「数」(しばしば)、「是以」(ここヲ以テ)など、波線を引かれた語が読めない、よくあることですが、そういうことも白文を読むことで、きれいさっぱりなくなります。

3.暗誦しようとしない。

漢文(正確には訓読文)を暗誦しようとする人がいます。
それ自体は、「訓読体」という美しい日本語の文体を身につける上では、おおいに意味があります。
しかし、漢文を読み解く力にはつながりません。
ただ、日本語を覚えているだけだからです。
覚えるなら、文法を覚えましょう。

4.ジャンル別は後で、文法(句法)を先に学習する。

市販の問題集などで自学している人も多いと思います。
問題集には、漢文の句法別(使役、受身、否定…など)に学習するものと、ジャンル別(史伝、思想、文章、詩…など)になっているものとがありますが、文法(句法)別になっているものを先にこなしましょう。
ジャンル別は、どうしても欠けてしまう文法(句法)があるからです。
まず、文法(句法)を身につけないと、自信がつきません。

文法(句法)は、サブテキストを活用して、なるべく早く一巡しましょう。
『体系漢文』でも、いわゆる句法編は実質70ページ程度に過ぎません。
こなせるはずです。

5.わからないことが出てきたら、まよわず先生に聞く。

漢文に限ったことではありせんが、学習していてわからないことが出てきた時、まず自分で調べて、それでもわからない時は、先生に質問しましょう。
先生は、仮にその時わからなくても、きちんと調べて教えてくださるはずです。
わからないことを放置すれば、また同じところでつまづきます。

6.量をこなす。

すべての語学にいえることです。
文法という理屈はわかっても、量をこなさない限り、言語は身につきません。
漢文をしゃべる人はいません、ということは、漢文をたくさん読まない限り、量はこなせません。
具体的には、問題集などを通して、たくさん読むことです。

7.とにかく漢文を楽しむ。

難しいかもしれませんが、何であれ楽しくないものを嫌々学ぼうとしても、身につきません。
漢文の題材には、古人の叡智が満ちあふれています。
また、人が陥りがちな失敗、人生の醍醐味、未曾有の大事件……、さまざまな人間の歴史が刻まれています。
それを漢文を通して知る、楽しくないはずがありません。


以上、色々と書いてみました。
高校生のみなさん、がんばってください。