李漁『十便十宜』詩 注解・「伊園十便5・汲便」
(内容:清の劇作家である李漁(李笠翁)の有名な「十便十宜詩」の注解。「汲便」。)
李漁『十便十宜』詩5.汲便(水を汲む便利さ)■原文飛瀑山厨止隔牆竹梢一片引流長旋烹佳茗供佳客猶帯源頭石髄香■書き下し文飛瀑(ひばく)
山厨(さんちゆう)
止(た)
だ牆(しやう)
を隔(へだ)
つ竹梢(ちくせう)
一片流れを引きて長し旋(たちま)
ち佳茗(かめい)
を烹(に)
て佳客(かかく)
に供すれば猶ほ源頭(げんとう)
石髄(せきずゐ)
の香を帯びたるがごとし■口語訳流れ落ちる滝と山の中のくりやはただ垣根を隔てるだけ
竹の梢(竹樋)一本が滝の水を長く引いている
すぐさまよい茶を点じてよい客に供すれば
水源の鍾乳石の香を帯びているかのようだ■注【飛瀑】《高い所から落ちる滝》【山厨】《山の中のくりや》「厨」は、台所。「庖厨」という熟語がある。【止】《ただ、わずかに》限定の範囲副詞。「只」などと同じ。「飛瀑山厨止隔牆」とは、飛沫を上げて流れ落ちる滝と家の台所が、わずかに垣根を隔てる近距離にあることをいう。【竹梢】《竹樋》「竹梢」は竹の梢の意だが、ここでは滝の水を引く竹樋のことであろう。【一片】「片」は薄く小さいものを数える助数詞。竹を半分に割って用いた樋なので、このような表現を用いたものか。「一片」という以上は複数本の竹樋とは考えにくく、「引流長(流れを引きて長し)」と矛盾するようだが、一句目に滝とくりやの距離の近さを歌うので、一本の竹で事足りたのであろう。【旋】《すぐさま》「旋」は、すみやか、たちまちの意の副詞。清らかな水をすぐさま利用できることを指し、茶を点てることの早さや客へのもてなしが早いことを指すのではない。【佳茗】【佳人】《よい茶》《よい客》「茗」は茶のこと。蘇軾(そしょく)
の詩『次韻曹輔寄壑源試焙新芽』の一節「従来佳茗似佳人」(従来佳茗は佳人に似たり)を踏まえた表現。【猶】《~に似る、~のようである、~と同じである》「猶」は類似を表す動詞。【石髄】石鍾乳の異名。石鍾乳は、炭酸石灰を含んだ泉水が岩の間から滴下して、その石灰質が凝固し積もったもの。