李漁『十便十宜』詩 注解・「伊園十便3・釣便」

(内容:清の劇作家である李漁(李笠翁)の有名な「十便十宜詩」の注解。「釣便」。)

李漁『十便十宜』詩

3.釣便(釣りをする便利さ)

 

■原文
不蓑不笠不乗舠
日坐東軒学釣鰲
客欲相過常載酒
徐投香餌出軽鯈

 

■書き下し文
(みの)せず笠(かさ)せず舠(たう)に乗らず
日に東軒(とうけん)に坐して釣鰲(てうがう)を学ぶ
客相過(よぎ)ぎらんと欲すれば常に酒を載(の)
(おもむろ)に香餌(かうじ)を投(とう)ずれば軽鯈(けいいう)(い)づ(軽鯈を出だす)

 

■口語訳
蓑も着ず笠もかぶらず小舟にも乗らず
一日中東の窓辺に座って釣りを学ぶ
客が立ち寄るといつも酒を用意する
しずかに香りのよい餌を放ると軽やかなはやが顔を出す

 

■注
【舠】
《小舟》

【東軒】
《東の窓辺》
「軒」には窓辺の意がある。家にいながらにして釣りができるという趣旨なら、「ひさし」の意ではないと思われる。

【釣鰲】
《釣り》
「鰲」は大亀の意だが、ここではまさか亀釣りとは思えないので、「釣鰲」で釣りの意だろう。

【客】
「李漁全集」では「容」となっている。それだと解しにくいのだが、「或」の意だろうか。

【欲相過】
《立ち寄りたいというと》
「欲」は「~しようとする・~したい」の意の助動詞。
「過」は、通りがかる、立ち寄るの意。「相」は、「過」という動作の対象があることを示す。つまり、客はたまたま通りがかったのではなく、明らかに作者を訪ねてきたのだ。

【載酒】
《酒を用意する》
「載酒~」(酒を載せて~す)の形で酒を持っていくの意味で用いられるが、ここでは「載」は「設」の意で、酒を用意するの意味だろう。

【徐】
《しずかに》
しずかにゆっくりとという意味。竿を振りかぶって餌を投ずるのではなく、たとえば振り子のように水に投じるのだろう。

【軽鯈】
《はや》
「鯈」は、淡水魚のはや、おいかわのこと。

【出軽鯈】
《はやが顔を出す》
漢文の構造的には、「軽鯈」は謂語動詞「出」の賓語で、「軽鯈を出だす」と読むべきところ。そう読めば、「はやを釣り上げる」と解釈することになるが、漢詩の性質上、「軽鯈出づ」と読んで、はやが顔を出すと解する方が自然だろう。