李漁『十便十宜』詩 注解・「伊園十便2・課農便」

(内容:清の劇作家である李漁(李笠翁)の有名な「十便十宜詩」の注解。「課農便」。)

李漁『十便十宜』詩

2.課農便(農事を課する便利さ)

 

■原文
山囱四面総玲瓏
緑野青疇一望中
凭几課農農力尽
何曾妨却読書工

 

■書き下し文
山囱(さんさう)四面総(すべ)て玲瓏(れいろう)たり 
緑野青疇(せいちう)一望の中
(き)に凭(よ)りて農を課するに農力尽(つ)
何ぞ曾(かつ)て読書の工を妨却(ばうきやく)せん

 

■口語訳
窓から見える山の風景は四方にわたって鮮やかで美しい
緑の野原も青い田畑も一望のうちにある
机によりかかり農事に励まなければとも思うが農事をする力は出ない
(そんな日は農事とて)どうして読書することを妨げてしまえるものか

 

■注
【山囱】
《山に向かって開かれた窓・あるいは山の見える窓》
「囱」は「李漁全集」では「窗」となっている。窓の意。

【玲瓏】
玉のように鮮やかで美しいさまを表す言葉。

【青疇】
《青々とした田畑》
「疇」は、耕地の畝の意。

【凭几】
《机によりかかる》
「凭」は、もたれる、よりかかる。「几」は、机の意。

【課農】
本来は「農業従事を勧告する」の意だが、ここでは詩意に合わないと思う。風光明媚な中で農事に疲れたある日、働かなければと思うのだが体が疲れていて思うように動かないということだろうか。そんな日もあっていいし、読書三昧もまたよいということだろう。

【何曾】
《どうして~ものか》
複合の副詞で反語に用いる。「曾」は「かつテ」と読んではいるが、必ずしも過去の経験を表すわけではない。

【妨却】
《妨げてしまう》
「却」は、謂語「妨」の後に置かれた結果補語で、「~しおわる、~してしまう」の意を添える。

【読書工】
《読書のいとなみ》
「工」は、いとなみの意。読書のいとなみ、読書すること。