李漁『十便十宜』詩 注解・「伊園十宜4・宜冬」

(内容:清の劇作家である李漁(李笠翁)の有名な「十便十宜詩」の注解。「宜冬」。)

李漁『十便十宜』詩
4.宜冬(冬によろし)

■原文
茂林宜夏更宜冬
禦却寒威当折衝
小築近陽春信早
梅花十月案頭供

■書き下し文
茂林(もりん)は夏に宜しく更に冬に宜し
寒威(かんゐ)を禦却(ぎよきやく)して折衝(せつしよう)に当たる
小築(せうちく)は陽(ひ)に近く春信(しゆんしん)早し
梅花十月案頭(あんとう)に供す

■口語訳
茂った林は夏にもよいがまた冬にもよい
極寒をふせぎ止めてくじく任に当たってくれる
小さな家だが日当たりもよく春の訪れが早く
早咲きの梅を机の上に供える


■注
【禦却】
《ふせぎ止めてしまう》
「却」は動詞(ここでは「禦」)の後に置かれ「~してしまう」の意の結果補語。

【寒威】
《猛烈な寒さ》

【当折衝】
《(寒さを)くじく役目をする》
「当」は、「つかさどる」の意。
「折衝」は、もと、敵が攻めてくる(衝き来る)をくじく(折)という意味。現在日本では「利害のくい違う相手と談判、かけひきする」という意味で用いられているが、本来「当折衝」とは、敵の攻撃をくじくという意味である。ここでは猛烈な寒さを茂った林がくいとめてくれるという意味。

【小築】
《小さな家》
「小さくて立派な家」という意味があるらしいが、そこまでの意味はここではこめていないであろう。

【近陽】
《陽に近い》
文字通り解すれば「太陽に近い」ということだが、日当たりがよいという意味か。

【春信】
《春が訪れたというしらせ》

【梅花十月】
早咲きの梅は百花に先駆けて厳寒の陰暦十月にも咲くという。李白の詩『観胡人吹笛』に「十月呉山暁、梅花落敬亭」(十月呉山の暁、梅花敬亭に落つ)とあり、そのような事実はあるらしい。

【案頭】
《机の上》