お勧めの虚詞詞典(大学生・教員・一般の方 対象)

(内容:大学生や教員が漢文を学習する上での虚詞詞典を紹介。)

漢文を読み解く力をつけたい大学生や高等学校の先生方、その他一般の方へ、必須の虚詞詞典を紹介します。

■虚詞詞典

漢文を研究する上で避けて通れないのが、虚詞の理解です。
日本では江戸時代から「助字」と呼ばれるものが概ねそれにあたりますが、いわば機能語として文法を補助する働きの語です。
これをきちんと理解することが、漢文を読み解く力につながります。
ぜひとも1冊は持っていたい書です。

1.『古代漢語虚詞詞典』〔中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室 編〕
(商務印書館2012)
「古代漢語虚詞詞典(中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室 編)」の写真

1冊選ぶとしたら、この書だと思います。
虚詞のもともとの意味と虚詞としての派生義への流れ、虚詞の意味や働き、用いられ方などが明快に述べられています。
見出しが見にくいのが難点ですが、代表的な虚詞詞典というべきです。
同名の書に、1の編者の一人である何楽士が語文出版社から出した虚詞詞典もありますが、これも良書です。


2.『古代漢語虚詞詞典(最新修訂版)』〔遅鐸 主編〕
(商務印書館国際有限公司2011)
「古代漢語虚詞詞典(遅鐸)」の写真

1と同名の書ですが、全くの別物です。
陝西師範大学文学院教授で、遅鐸という辞書の編纂や研究に大きな功績のある学者による書籍。
この書は、他の虚詞詞典にはあまり見られない虚詞の用法や語義について網羅的に載せてあるように感じます。
『古漢語虚詞詞典』〔白玉林/遅鐸〕(中華書局2004)も同傾向の虚詞詞典になります。
管理人がこの書をお勧めするのは、中国でその虚詞の意味をどう理解しているかという現状を知ることができるからです。
別の言い方をすると、管理人はその網羅的な用法や語義については、常に疑っています。
書かれていることを鵜呑みにするのではなく、「なるほど中国ではこのように理解されているのか…、本当かどうか自分で確認してみよう!」が大切です。


3.『古書虚詞通解』〔解恵全/崔永琳/鄭天一〕
(中華書局2008)
「古書虚詞通解」の写真

清人の袁仁林『虚字説』、劉淇『助字弁略』、王引之『経伝釈詞』、呉昌瑩『経詞衍釈』の4著、近くは楊樹達『詞詮』、裴学海『古書虚字集釈』、孫経世『経伝釈詞補・再補』の3著、あわせて7著の説を引用し、検討を加えたものです。
これらの人たちの虚詞解釈には、私などは本当にそう言えるだろうか?と首をかしげてしまうことも多いのですが、この書の姿勢は慎重で、かなり信頼がおけると思います。
持っていて損はない書です。


4.『文言複式虚詞』〔楚永安〕
(中国人民大学出版社1986)
「文言複式虚詞」の写真

単音の虚詞についての字典でなく、複音からなる虚詞や組み合わせによって意味をなす虚詞について詳細な解説がなされています。

他にも『古漢語虚詞手冊(修訂版)』〔韓崢嶸〕(吉林教育出版社2005)、『近代漢語虚詞詞典』〔鐘兆華〕(商務印書館2015)など、虚詞詞典はたくさんあります。
管理人は、虚詞の働きを考えるとき、用いられた時代を考慮しながら、多くの虚詞詞典を参照しますが、しかし、書かれていることを鵜呑みにしないように常に心がけています。
なぜなら、中国の虚詞理解には合理的判断により本来の義ではない説明がなされる傾向があるように思うからです。
たとえば、ある虚詞Aについて、他の書籍では異なる虚詞Bを用いたほぼ同文があるから、AはBの意味であるとか。
あるいは、文脈からそういう意味だと判断すると通るので、この虚詞にはそういう意味があるとか。
つまり、私が言いたいのは、虚詞詞典を有効に利用したいが、鵜呑みにはせず、自分で考えろということです。
学問とは本来そうではありませんか?