はじめに

(内容:『漢文 学びの窓』で記事を書くにあたって、基本方針を述べる。)

『漢文学びのとびら』を書くにあたって、次のような方針をとりました。


■対象
1.高等学校や学習塾・予備校等で漢文の授業をする先生方。
2.自分で漢文をじっくり学びたいという高校生や、その他のみなさま。

ただし、『漢文学びのとびら』は、いわゆる高等学校の現場で行われている漢文の扱いとは異なる立場をとっています。
漢文を日本語の一つとして理解しようとしたり、漢文と日本語の区別があいまいな方には、かえって混乱を招くかもしれません。
あくまで漢文は古典中国語で、いうまでもなく他国の言語なのだということが飲み込めないと理解が難しいでしょう。


たとえば、「顔如猿。」は「顔
(かんばせ)猿のごとし。」と訓読し、「顔は猿のようだ。」と訳しますが、

主語「顔」+述語「如」+目的語「猿」の構造で、「如」は近似を表す動詞。

のように説明します。
即座に「如」は「ごとし」という助動詞じゃないかと思う方は、日本語で理解しようとしています。
これに固執すると混乱してしまいます。


また、「人不来。」は、「人来たらず。」と訓読し、「人が来ない。」と訳しますが、

主語「人」+述部「副詞『不』+述語『来』」の構造。

と説明します。
「不」は助動詞じゃないのかと思う人も前と同様、日本語で理解しようとしています。


「猿のごとし。」の「ごとし」、「来たらず」の「ず」は、助動詞です。
なぜなら、これは日本語だからです。
しかし、「如猿」の「如」は動詞、「不来」の「不」は副詞です。
それは日本語ではなく古典中国語だからです。


たとえば以上のようなことが飲み込めたら、『漢文学びのとびら』は、漢文を構造的に理解し、語の意味を他国の言語である漢字として理解する上で、お力になれるかもしれません。


■方針
1.漢文の構造や語法、品詞の分類は、極力古典中国語文法に従って説明する。
さまざまな学説や説明のしかたがあるところですが、高校生向けの記事では、現在中国で一般的な品詞の分類や語法の考え方に基づきました。
専門的な記事では、ややそれを越えた部分があります。

2.訓読の説明は、古典日本語として行う。
漢文自体の説明を行う時は、方針1に従いますが、それを訓読(=翻訳)したものは日本語ですから、日本の古典文法に従って説明します。
これはこれで日本の文化として大切なものであり、また高等学校で教わる漢文の根幹でもあるからです。
訓読によらず語法を理解しようとする試みにありがちな、訓読軽視の立場はとりません。


3.作品について、日本および中国の諸注釈書や訳本を可能な限り参照する。
これは書き手の戒めとして、独断に陥らないようにするためです。
同時に、一般の解説書に省かれがちな、どの解釈や説がどの書に基づくのかを明示して、独学される方の便をはかりたいからでもあります。


4.諸注釈書に引用された文は、必ず原典にあたる。
学ぶ者の当然の姿勢ですが、「この本にこう引用されていました」ではなく、その元となったものにあたって真偽を確認します。
したがって、「『○○』に『……』とある。」などと断定的に書いたものは原典にあたって確かめた上で書いています。
それに対して「~だそうです。」と伝聞のような書き方になっているものは、非力にして原典にたどり着かなかったものになります。


5.とりわけ虚詞の取り扱いについては、中国の参考書や字典を参照するが、妥当であるかどうか自分自身で考え検証する。
古典中国語においても、虚詞の理解が必須だといわれています。
虚詞とは実詞に対するもので、単独では文の成分となることができず、語法上の働きをするだけの字です。
この語法上の働きが実にさまざまで、読解の鍵を握っているのに、従来高等学校の授業でなおざりにされてきた部分でもあります。
したがって、この虚詞の扱いには慎重を期したいと思います。

6.口語訳はなるべく古典中国語の語義に忠実に行う。
これはあくまで可能な限りであり、また訓読と大きな差異がでない限りにおいてのことですが、いわゆる意訳をなるべく排除し、語や構造と訳が結びつくように配慮します。

7.丁寧に説明して、理解の便をはかる。
ややおしゃべりな記述になっても、はしょったために理解がしにくくなるということだけは避けたいと考えています。
特に当然わかっているはずだから触れないという立場はなるべくとりません。


■題材
1.高等学校の漢文の教科書にとられている作品。
まずは「故事」から「史伝」「思想」など、有名な作品を少しずつ、牛の歩みか、蝸牛ほどのスピードですが、紹介していきたいと思っています。

2.紹介する価値があると認めた作品
教科書や参考書にはあまり紹介されていなくても、紹介する価値があると判断した作品については、少しずつ解説を加えていきたいと思っています。

以上のような方針ですが、興味のおありの方はおつきあいください。

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